STAFF NOTE 25 / PART II ことばとコミュニケーション / 3段階解説

語用論的困難ってなあに?— ごようろん/Pragmatic Difficulties —

一つのテーマを レベル1(やさしく全容)/レベル2(深く実践的に)/レベル3(専門的・次へつなぐ) の3段階で。 各レベルに 療育的アプローチ を併記し、概念と現場をつなぎます。
LEVEL 1 「ことばの使い方・場の読み方」がむずかしいこと 小学生・保護者向け/全容ざっくり

かんたんに言うと

語用論的困難とは、ことばの「使い方」や「場の空気」を読むのがむずかしい こと。 単語や文法は知っていても、いつ・だれに・どう言うか の調整がうまくいかない状態です。

たとえば「暑いね」を 「窓を開けて」という遠回しのお願い と気づけず、言葉どおりに受け取ってしまう。 会話の順番や話題の切り替えにも戸惑いやすいのが特徴です。

いつ言う? だれに言う? どう言う? いまの話題は? 順番は?

療育アプローチ① 言外の意味を見える化

「察してね」を求めず、ことばと気持ちを具体的に伝える 関わりを。

  • 遠回しに言わず「窓を開けてね」と はっきり伝える
  • 気持ちや意図を 絵・写真 で見える化して添える
  • 会話の順番を「いま◯◯ちゃんの番」と言葉で示す
LEVEL 2 「困った会話」は"伝え方を育てるサイン" スタッフ・支援者向け/現場で活かす

気づきたい子どものサイン

語用は 語彙・文法とは別の力。「よく話すのに会話がかみ合わない」子こそ見落とされやすい領域です。 次のサインを 「整えどころ」 として読み解きます。

  • 冗談・皮肉・たとえを 言葉どおり に受け取る
  • 一方的に話し続け、相手の番に 譲りにくい
  • 話題が急に飛ぶ/文脈に合わない発言が混じる
  • 相手や場面で 言い方を変える 調整がむずかしい
  • あいさつ・お願い・断りなど やりとりの型 が育ち途中

療育アプローチ② 場面と型でやりとりを育てる

  • 視覚スケジュールで活動の流れを示し、会話の文脈を予測可能に
  • あいさつ・お願い・順番交代を サイン・絵カード で型として練習
  • 「いまは聞く番/話す番」を 実物・カード で交代の合図に
  • 体操の 順番待ち(ラダー・ボールプール)を自然なやりとり練習に
  • 遠回しを避け、意図を スモールステップで言語化して添える
LEVEL 3 語用論・社会的コミュニケーションの理論基盤 専門職・ST/心理連携/次へつなぐ

理論的背景と他領域との接続

語用論(pragmatics)は、文脈の中での言語使用を扱う領域。話し手の意図は字義を超えて伝わり、 Grice の協調の原理(1975)と会話の含意がその基盤を説明する。 字義通り解釈の偏りは、心の理論(Theory of Mind)の発達と関連して論じられる。

DSM-5では社会的コミュニケーション症(SCD)として整理され、話者交替文脈理解・ 談話結束性の困難を中核とする。ASDとの異同(限局的興味・常同行動の有無)が鑑別の鍵となる。

評価は CCC-2(語用プロフィール)や語用論的言語評価を用い、 形式(音韻・統語)と使用(語用)を分けて捉える視点が重要。

療育アプローチ③ アセスメントと連携

  • 語彙・統語の評価に加え 会話サンプルで語用を質的に分析
  • ST連携指標:話者交替の頻度・話題維持・要求/叙述の機能の偏り
  • 心理連携:心の理論課題・社会的推論の発達水準と併せて解釈
  • TEACCH構造化で文脈を視覚的に明示し、含意への依存を減らす
  • Low Arousal設計:刺激を抑え、やりとりに注意を向けやすい場を整える
  • 個別支援計画に 機能的コミュニケーションの目標を段階設定