STAFF NOTE 39 / PART III こころと社会性 / 3段階解説

役割取得ってなあに?— やくわりしゅとく/Role-Taking / Perspective-Taking —

一つのテーマを レベル1(やさしく全容)/レベル2(深く実践的に)/レベル3(専門的・次へつなぐ) の3段階で。 各レベルに 療育的アプローチ を併記し、概念と現場をつなぎます。
LEVEL 1 役割取得は「相手の気持ちになってみる」力 小学生・保護者向け/全容ざっくり

かんたんに言うと

役割取得とは、「もし自分がこの人だったら、どう感じるかな」と想像してみる力のこと。 おもちゃを取られた友だちが泣いているとき、「悲しいんだな」と相手の側に立って考えられることです。

この力はいきなり育つのではなく、「自分」と「相手」の見え方はちがうと気づくところから、 少しずつ広がっていきます。

自分の気持ち 相手にも気持ちがある 見え方はちがう 相手の側で考える

療育アプローチ① 気持ちに名前をつける

まずは 自分の気持ちがわかる 体験を、家庭でもたっぷりと。

  • 「うれしいね」「くやしかったね」と気持ちを言葉にして返す
  • 絵本やごっこ遊びで「この子はどんな気持ちかな?」と一緒に考える
  • 正解を急がせず、子どもなりの見方をまず受け止める
LEVEL 2 「わがまま」ではなく「まだ見え方が一つ」のサイン スタッフ・支援者向け/現場で活かす

気づきたい子どものサイン

自分の視点と相手の視点を 同時に持つのは、とても高度な力。 うまくいかない場面は「自分勝手」ではなく、「まだ視点が一つに見えている」サインと読み替えます。

  • 自分の見たもの・知っていることを、相手も同じだと思っている
  • 順番ゆずり・物の貸し借りでつまずきやすい
  • 勝ち負けや「自分が正しい」にこだわり、折り合いが難しい
  • 相手が嫌がっていても気づきにくく、悪気はない
  • 「ごめんね」と言えても、なぜ相手が困ったかは結びつきにくい

療育アプローチ② 安心の中で視点を交換する

  • 共同調整:まず大人が穏やかに寄り添い、落ち着いてから一緒に振り返る
  • ごっこ・役割交代遊び:お店屋さん等で「売る人・買う人」の両側を体験
  • 成功体験の設計:「貸せた」「待てた」場面を具体的に言葉で価値づける
  • 体操6コース:順番・応援のある活動で「相手を見る」を遊びの中で育てる
  • トラブルは責めずに「相手はどう見えたかな」を一緒に絵や言葉で整理する
LEVEL 3 役割取得の発達段階と社会的認知の基盤 専門職・心理/ST連携/次へつなぐ

理論的背景と発達の道筋

役割取得(perspective-taking)は、自他の視点を区別し協応させる 社会的認知の中核。Selman(1980)役割取得の段階を、自他未分化な水準0から、相互的・社会慣習的視点をとる水準4へと 発達するモデルとして整理した。

基盤には 心の理論(Theory of Mind)の発達(誤信念課題の通過)があり、 そこに 共感(empathy)の情動的側面が重なって 社会的問題解決(social problem-solving)へと展開する。 ASDでは認知的視点取得の質的差異が指摘される。

関連する介入には SST・コミック会話・Floortime等があり、 いずれも情動の安定を土台に据える点で共通する。

療育アプローチ③ アセスメントと連携

  • 誤信念課題・対人葛藤場面の語りから 現在の役割取得水準を見立てる
  • 水準に合わせ、視点取得を スモールステップで課題設定する
  • ST連携:語用論(会話の文脈・含意理解)と視点取得を併せて評価
  • 心理職連携:共感・自己制御・愛着の安定を情緒的土台として支える
  • Low Arousal設計:刺激を抑えた環境が「相手に注意を向ける」余白を生む
  • 個別支援計画に「対人目標」を強みベースで具体的に記述する