一つのテーマを レベル1(やさしく全容)/レベル2(深く実践的に)/レベル3(専門的・次へつなぐ) の3段階で。
各レベルに 療育的アプローチ を併記し、概念と現場をつなぎます。
LEVEL 1
ワーキングメモリは「頭の中のメモ用紙」
小学生・保護者向け/全容ざっくり
かんたんに言うと
ワーキングメモリとは、聞いたことを少しのあいだ覚えながら使う「頭の中のメモ用紙」のこと。
このメモ用紙は とても小さくて、すぐ消えてしまう のが特ちょうです。
たとえば「くつ下はいて、上着きて、玄関に来てね」と言われると、
くつ下をはいているうちに後の2つがスッと消えてしまう。
わすれっぽい=なまけ、ではありません。メモ用紙が小さいだけなのです。
聞く
覚えておく
使う
消える
療育アプローチ① 覚える量を減らす
家庭でも、メモ用紙に「のせる量」を減らす工夫ができます。
- お願いごとは 一度に1つ にする
- 言葉だけでなく 絵や写真 でも見せる
- 「次は何だっけ?」と本人に思い出させすぎない
- できたら一緒に確認し、覚えていた事実を喜ぶ
LEVEL 2
「忘れっぽさ」をサインとして読み解く
スタッフ・支援者向け/現場で活かす
気づきたい子どものサイン
複数の指示が一度に入ると、容量があふれて最後だけ残る・最初だけ残ることがあります。
叱る前に「メモ用紙があふれたサイン」と読み替えましょう。
- 長い指示の 途中で止まる/一部だけ実行する
- 「今なにするんだっけ?」と何度も聞き返す
- 暗算や音読の 聞き取り課題でつまずく
- 持ち物の準備など 手順の多い活動で抜けが出る
療育アプローチ② 見通しと環境で支える
- TEACCH視覚スケジュール:手順を絵カードで外に出し、記憶に頼らせない
- スモールステップ:指示を1ステップずつ区切って提示
- 体操コース:ラダーの色順・フープの並びを「覚えて動く」認知運動課題に
- Low Arousal設計:余計な音・掲示を減らし容量を守る
- できた手順を 終了箱で見える化し、達成を残す
LEVEL 3
Baddeleyモデルと学習・指示理解の基盤
専門職・OT/PT/ST連携/次へつなぐ
理論的背景と学習との関連
ワーキングメモリは、情報を一時的に保持しながら操作する能動的システム。
受動的に貯めるだけの 短期記憶とは区別される。
Baddeley & Hitch(1974)は、中央実行系が
音韻ループ(言語情報)と視空間スケッチパッド(視覚・空間情報)を制御する多重貯蔵モデルを提唱した。
音韻ループの容量は 指示理解・読解・算数の繰り上がりに直結し、
学習困難の背景因子として重視される。後に エピソードバッファが追加され、
長期記憶との統合が説明された。評価には WISC-V ワーキングメモリ指標等を用いる。
療育アプローチ③ アセスメントと連携
- 聴覚性/視空間性のどちらが弱いかを見極め、得意な経路で提示する
- 記憶に頼らせず 外的補助(視覚支援・チェックリスト)で環境に肩代わりさせる
- ST連携:言語指示の長さ・語彙負荷を音韻ループ容量に合わせて調整
- OT連携:注意の持続・遂行機能との重なりを評価し課題量を設計
- 個別支援計画に 「覚える量の上限」を明記し全スタッフで共有